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zoom RSS 花の乙女が出来るまで 10

<<   作成日時 : 2018/07/18 14:04  

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 厚い石の壁、窓も無く、ただひとつの出入り口は鋼鉄の重いドア。
 ランプがなければ真っ暗な部屋に置いてあるのは、古いベッドだけ。
 夜明けに目覚める前、俺はいつもそこに居る。
 まだアンバーであった頃、唯一俺が安息を得ていた自分の部屋。無防備にならざるを得ない睡眠の間だけ籠っていた居場所。
 目を開ける。まだ暗い部屋は、見慣れぬ天井。ここは、ブライベートコンシェルジュ養成所の寮だ。
 簡易的に部屋を区切るカーテンの内側で、ベッドから起き上がった俺は素早く着替える。両脛とベストの内側に仕込んだナイフを、同室のふたりに見られる訳にはいかない。
 どれほど普通の生活を望んだとしても、武器を手離すことだけは考えられない。
 丸腰は恐ろしい。素手で戦うことも出来るけれど、自分の命を支え続けた短剣を今更捨てられない。
 冒険者であるヒューイットは、自身が武器を持ち歩いているから、俺の矛盾を気に掛けないのが救いだ。
 着替えを終え、ベッドメイクを済ませる頃、隣のハイデルンが起きた気配。いちごはまだ寝ているらしく、くうくうと可愛らしい寝息が聞こえる。
「おはようございます、早いですね」
「おはよう、ハイデルン」
 ハイデルンが身支度を終えたタイミングで、いちごが起きてくる。
「おはようございまあす…」
「おはよう、いちご」
 いちごが顔を洗っていると、他の部屋でも誰かが起き出す物音がする。
 基本、プライベートコンシェルジュの朝は早い。
「今日は、ディナーの調理実習ですね」
「なんだかんだ料理系の研修が一番多いな」
「美味しい料理は心まで満たしてくれますから」
「そうだな」
 食堂で簡単な朝食を済ませ、調理室に向かう。
 3名1組のチームで、4人前のディナーコースを作ることが課題だ。俺は前菜を、ハイデルンはメインディッシュを、いちごはデザートを担当することに決めてそれぞれ料理を始める。1人前は講師への提出用、残り3人前は自分達の昼食兼試食分になる。
 ハイデルンがメギス鶏のシチューにすると言っていたので、シンプルなコンソメスープと、白身魚のカルパッチョを作る。いちごが前日から仕込んでいたらしい生地でパンを焼いている香ばしい匂い。デザートはケーキを焼くつもりらしく、小さな身体が忙しなく動いている。
「いちご、何か手伝おうか」
「では、生クリームを泡立てをお願いします!」
「了解」
 ベリーシロップを加えたクリームは、可愛らしいピンク色になった。
 シチューを煮込み始めたハイデルンが、ケーキに乗せるフルーツの飾り切りを始める。最初出会った時も思ったが、豪快なオーガには珍しく、繊細な作業が得意らしい。
 いちごは俺からクリームのボウルを受け取ると、既に冷ましてあったスポンジに塗りつけていく。今回は、ベリーをふんだんに使ったケーキのようだ。ハイデルンはシチューの仕上げに戻る。それぞれが腕を振るった料理を美しく盛り付け、テーブルにセットするまで気を抜けない。
 講師の採点を受け、自分達で試食する。
「シチュー美味いな」
「このカルッパチョのドレッシングいいですね!」
「ケーキは見た目より甘さ変え目なのですね。これなら、甘いものが苦手な男性にもよさそうですね」
 ほとんど三人同時に、
「「「レシピ」」」
 と言い出して、思わず笑う。
「ルーウェスさん、魚の裁き方おしえてください!」
「任せろ」
「いちごさん、ケーキのレシピおしえて頂けますか」
「もちろんです」
「ハイデルン、シチューのレシピおしえてくれ」
「はい」
 そのうちに近くのテーブルから他のプラコン見習い達が覗きに来る。
「なあ、このドレッシング何使ってんの?」
「エルトナ産の風花かぼすだ」
「へえ、だからちょっと風味が変わってるんだな。面白い」
 わいわいとお互いのレシピを尋ねたり、摘み食いをしたり。誰もが熱心に、未来の主の為に学んでいる。俺もまた、あれこれとメモを取りながら、胸に満ちていく温かいものを感じていた。
(ここは、明るい)
 真っ暗で何もないことが安息だった部屋とは間逆の、希望と夢に満ちた明るい空間。
 まるで、闇を照らす灯火のように。
 少しでも早く、この光を持ち帰りたい。

(ヒューイ)

 俺を、おかえり、と迎えてくれる、ただひとりの為に。


 まだ名無しのままですが、入学試験編に続いてイェンファのプラコン研修編です。
 前回に引き続き、あいこさんちのハイデルンさんと、しえるさんちのいちごくんをお借りしています。お二方、ありがとうございます!

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