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zoom RSS 花の乙女が出来るまで 9

<<   作成日時 : 2018/05/06 00:45   >>

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(筆記試験は何とかなったな)
 ルーウェスと偽名が記された問題用紙を見返しながら、そっと息を吐き出す。
 一般常識から、冒険者の心得、マナー、各大陸の歴史と多岐に渡る内容で、なかなかの難敵だった。
(貰った参考書に過去問があって助かった)
 やがて終了を告げるチャイムが鳴り響き、悲喜交々などよめきが上がる。
 俺は試験官に問題用紙を渡すと、控え室まで戻った。
(午後から実技試験か)
 体型に合わないベストが気になって、裾を直す。貸し出されたベストが、仮プラコンの印だ。
 控え室には、筆記を受けた人数より多くの者が居た。
(ん?)
「実技試験は、学校生と合同になります」
 控え室にやって来た試験官が簡潔に説明する。養成学校に通っていた生徒の最終試験と兼ねるらしい。
 外部受験だろうが、内部受験だろうが、今身に付いている実力を試されることに変わりはない。
(さて、次はどんな試験だ?)

「実技試験は、こちらです」

 指し示されたのは、赤い林檎だった。
「こちらの林檎を、ご主人様に美味しく食べて貰うことが試験となります」
 キッチンや調味料、他の食材は自由に使っていいらしい。
「準備が出来た方から試験室に入って来てください」
 試験官が去ると、皆急いで林檎を手にキッチンへ飛び込んで行く。
(どうする? アップルパイでも焼くか?)
 林檎を手に考える。
(ご主人様に美味しく食べて貰うこと)
 ヒューイットなら、どうしたら喜んでくれるだろう。
 熱々のアップルパイにアイスを添えたのは好評だったが。
(それでいいのか?)
 赤い林檎を眺めるうち、ふと気づく。

(この林檎は)

 早々と魔法を駆使してアップルパイを作ったらしいエルフ男子が、試験室に入って行く。
 ちらりと見えた皿は、美しく盛り付けられていた。キッチンルームがざわめく。林檎を使った料理となるとレパートリーは狭い。試験である以上、他者とメニューが被るのは避けたい。
 キッチンルームが慌ただしさに包まれる。次々と料理の皿を持って試験室に向かう。しかし。

「不合格…!?」

 真っ先に飛び込んで行ったエルフ男子のアップルパイに始まり、失意の表情で試験に挑んだ者達が帰って来る。どれもこれも美味しそうに作られているのだが。
 合格者が一向に出ない。
 再トライは自由だが、不合格者を始め、皆の手が止まりがちになる。
 見た目も味も完璧な一皿をというなら、目標は判りやすい。だが、それが不合格となるならば、何を目指せばいいのか。謎解きのような課題。赤い林檎を主人に美味しく食べてもらうこと。
(さすがに一筋縄ではいかないな)
 俺は自分の手の中の林檎を見つめる。
(…俺なら、どうする?)
 この林檎をヒューイットに食べてもらうなら。
 一番美味しい食べ方は。
(よし)
 俺は林檎を丁寧に洗って、水気を取る。それをシンプルな白い皿に乗せ、そのまま試験室に向かう。
「ルーウェス、入ります」
「どうぞ」
 部屋の中に入ると、3人の試験官が居た。その前に、皿に乗せた丸ごとの林檎を置く。
「これは?」
 俺は林檎を取り上げベストの裾でごしごし拭いて、皿に置き直す。
「この林檎は、丸ごとかぶりつくのが一番美味しいのです。ですから、どうぞこのままお召し上がりください」
 この林檎は、温暖なウェナ諸島の気候で育ったヴェリナード産のものだ。甘みが凝縮された蜜が皮のすぐ下にあるのが特徴で、皮を剥いてしまうと、最も美味しい部分が削がれてしまう。
 だから、皮ごと食べるのが一番いい。
 他の林檎ならば、調理しても良かっただろう。だが、課題はこの林檎。食材の特徴を最も生かした食べ方で、主人に喜んでもらう方法を考えよ、というのが本当の試験内容なのだろう。
(林檎が何処産か、見抜けるかどうかがポイントだな)
 3人の試験官は顔を見合わせ、それから俺を見て微笑んだ。
「合格です」
 代表らしい、真ん中の女性が告げた。
「林檎の産地をよく見抜きましたね。その観察眼は、必ず仕事に役立つでしょう」
「心します」
 一礼すると、入口とは反対側の扉へ促される。俺は皿を持って退室した。
 扉を閉めた途端、緊張が緩んで大きく息が漏れた。
(……心臓がうるさい)
 つくづく自分は何も考えずに生きていたのだと思い知らされる。失敗が許されない場面は幾度もあったが、失敗したくないと願ったのは初めてのような心持ちだ。右手で前髪を払い、廊下を進む。
 奥には、ドアが開いた控室。実技試験の前に居た部屋の半分程だ。
(つまりそれが、協会側が考える合格者数と言う訳か)
 手近なテーブルに皿を置こうとしたところで、
「いっちばー…!!」
 赤い髪のプクリポが勢いよく駆け込んで来た。だが、俺を見てたたらを踏む。
「うわーん、僕が1番だと思ったのにー!」
 悔しそうにじたばたしながらこちらに近づいてくる。彼の皿の上には、可愛らしいうさぎ林檎。
「残念でしたね」
 続いて、オーガの青年が入って来た。こちらは、薄切りした林檎で美しい薔薇を象っている。
 お互いの皿を眺め、プクリポの彼が堪えきれないように、ぷるぷるし始める。
「……笑っていいですよ」
 そう声を掛けると、ぶは、と吹き出したのは、オーガの青年の方が早かった。
「いや、失礼…」
(まあ、当たり前だな)
「林檎丸ごととは大胆ですね」
(我ながらそう思う)
「丸齧りを面白がってくれそうな主人なので」
 ヒューイットは多分、笑いながら一緒に食べてくれるだろう。
「ああ、もう仕えている御主人様がいらっしゃるんですね、すごいなあ」
「お二人は学院から?」
「ええ、卒業試験です」
 オーガの青年が頷く。
「どんな御主人様に選んで頂けるか、今からとても楽しみなんです!」
 プクリポの彼は、丸い目をキラキラさせながら言う。
「その為には、これからの研修も頑張りませんとね」
 研修も出来が良くなければ、卒業が取り消されてしまうらしい。
(なかなか厳しいな)
 それは、俺も同じ条件だ。
「そうだ。よろしければ、このまま部屋割りを決めてしまいませんか」
「部屋割り?」
「ええ、研修中は3名1組でグループを作るのです」
「寝泊まりする部屋も一緒になるんですよー」
 ここで出会ったのも何かの縁ですから、とオーガの青年が笑う。
「ルーウェスだ」
 よろしく、と手を出すと、がっちりと大きな手で握手を返される。
「ハイデルンと申します」
「いちごです!」
 続いて、そう名乗った丸めの赤いプクリポを、思わず見下ろす。
「何か?」
「いや、可愛らしいお名前ですね」
「よく言われます。でも、僕は名前とは違って甘くないですから!」
 可愛らしさは彼らの種族の特色だが、それに惑わされて判断を誤ることは侮辱だろう。
「よろしく、いちご」
「よろしくお願いします」
 跪いて、いちごと握手を交わす。俺はまた、良き出会いに恵まれたようだ。
「試験官にお願いして、宿泊用の棟に行きましょう」
「部屋は早い者勝ちですからねー」
「大きいベッドがある部屋は限られていますので」
 それは、オーガにとっては死活問題だろう。
「案内をお願いするよ」
「勿論です!」
 こっちこっちと軽快に走り出した、いちごの後を追う。
(とりあえず、試験は突破だな)
 あとは研修だけだが、こちらも一筋縄ではいかなさそうだ。
 だが。
(心が躍るようだ)
 ワクワクする。
 一歩ずつ、違う自分になって行く。普通の、誰かを殺さずに生きていく、ただのウェディに。
(罪は罪として)

 今はただ、彼のプラ一ベートコンシェルジュになる為に。

(頑張ろう)



プラコン研修編の始まりです。
使用したお題は『赤い林檎』となります。

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