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zoom RSS 花の乙女が出来るまで 7

<<   作成日時 : 2017/01/03 13:25   >>

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 ちりんちりーん、と郵便が届いたことを知らせるベルが軽やかに鳴り響く。
 その音を耳にしたれおは、ぴょんと弾むように椅子から降りて、大急ぎで家を出るとポストを開けた。
「…届いた!」
 配達された少し厚めの封筒を抱き締めて、れおはそのまま走り出す。
 目指すは、少し高台に建っているヒューイットの家。
「ヒューイさーん!」
 庭先で声を掛けると、青い玄関扉が開く。
「れおさん、こんにちはー。そんなに慌てて、どうしたの?」
「前に話してた、プラコンさんの衣装カタログが届いたの!」
 見て見てほらほら、と封書を掲げると、ぱあっ、とヒューイットが表情を輝かせた。
「ありがとう! 入って入って!」
「おじゃましまーすっ」
 れおを家の中へと招き入れると、ヒューイットは慌ただしくお茶の準備をし始める。
「ヒューイさん、おかまいなくー」
「遠慮しないで、ケーキあるから食べていってよ」
 程なく、ちょっぴり薄めの紅茶と、生クリームたっぷりのロール・ケーキがれおの前に出された。
(プラコンさんのお菓子、やっぱり美味しい)
 もぐもぐとケーキを頬張るれおの横で、カタログのページを捲るヒューイットの瞳が嬉しそうにきらきらしている。
「スタンダードなプラコンスーツでもカラーバリエーション豊富なんだね」
「スタンダード・スタイルも素敵ですよね」
「うんうん」
「新作も素敵なんですよ!」
「あっ、天使スーツ!」
「ヒューイさん、天使スーツお好きですよね」
「うん、あのデザイン好きなんだ」
 でも、とヒューイットは表情を曇らせる。
「白は多分、着てくれないかな」
 まっさらな穢れ無き色を纏うには、彼の人は屈託がありすぎるから。
「ふっふっふ、大丈夫! 黒もありますよ!」
 カラーバリエーションのページを見せると、陰った瞳がまたきらきらし始める。
「……黒なら着てくれる、かな」
「着てもらいましょう、ぜひとも!」
「そうだね!」
 ショップの通販方法を教え、ケーキを食べ終わったれおは椅子から降りる。
「紅茶とケーキ、ごちそうさまでした」
「ごめんね、紅茶は美味しくなかったけど」
「そんなことないですよ」
 確かに、今は留守にしているプラコンさんが淹れてくれた方が美味しいけれど、ヒューイットが一生懸命淹れた紅茶は、とてもあたたかいから。
「わたしは、好きです」
 れおの言葉に、ヒューイットは照れ臭そうに笑った。
「ありがとう、また来てね」
「はい!」
 玄関を出て、庭の畑に水をやってから、ヒューイットの家を辞する。今度、ここを訪れる時には、黒い天使スーツのプラコンさんが見られるだろうか。
 その様子を想像して、れおは微笑む。
(ふたりとも、どうか)
 坂道をゆっくり下りながら、れおは小さく胸の中で呟く。
(幸せになってくださいね)
 誰しも語らない過去や、辛い記憶を持っている。
 多分、ヒューイットも、あのプラコンさんも。
 それを知ったら、許せないと思ってしまうかもしれない。嫌いになってしまうかもしれない。
 だけど、れおは何も知らない。無条件で大好きで居られる今だからこそ、ひっそりと祈る。

 あのふたりが、ずっと笑っていられますように、と。




「跪いて、爪先に口付けしたら許してくれる?」
 気障な台詞をしれっと吐いて、目の前のエルフ男子は笑う。それで、何やら怒っていた女性の機嫌を直してしまうのだから、大したものだ。
「…よくまあ、そんなセリフ言えるねえ、クジャさん」
「えー、だって、本気だし?」
 女性には優しくしないとねと、さらりと言ってしまう辺り、ウェディ男子としては見習うべきか。
「ヒューさんだって言えばいいんだよ」
「…エンリョします」
「ウェディの専売特許でしょ」
「何事にも例外はあります」
「例外って」
 面白いこと言うね、と楽しそうに笑うフレンドにヒューイットは、ふと気になっていたことを尋ねてみた。
「ねえ、クジャさん」
「んー?」
「キスってさ、する位置で意味違うんだよね?」
「ああ、そういうのあるね。『手の上なら尊敬のキス』『額の上なら友情のキス』」
「掌は?」
「掌?」
「うん、掌」
「へえ」
 にやり、とクジャが人の悪い笑みを浮かべる。
「ヒューさんは、誰にキスされたのかなー?」
「だ、だだだ誰でもいいだろ」
「掌の上だなんて、情熱的だねえ」
 ひらりと掌をヒューイットに向けて、クジャは続けた。

「『掌の上なら懇願のキス』」

「懇願…?」
「そそ、『私を愛して』だよ」
 誰からの愛情も受けなかった男が、希う。
 俺を愛してくれ、と『懇願』する。
 クジャからの解説が脳内を巡り、意味を咀嚼したところで、一気に顔が熱くなった。
「ヒューさん、真っ赤ー」
「うううううるさいうるさいっ」
「情熱的な告白じゃんか、ちゃんと返事した?」
「…帰る!」
「あ、逃げた」
 いきなりルーラで飛んだヒューイットを見送って、クジャは楽しげに声を上げて笑った。
「今度、ゆーっくり聞かせてもらおうっと」


 後先考えずに飛んだ先は、チョッピ荒野だった。
 討伐でよく行くのでルーラ石を登録したばかりだ。着地の勢いのまま、ヒューイットは走り出す。何の関係も無いのに、荒野の休息所の人の気配にすら居たたまれなかった。顔が熱い。胸が苦しい。

『俺を、愛して』

 唇は、駄目押しのように二度触れた。
 その意味を尋ねたけれど、はぐらかされた。

『掌の上なら、懇願』

 誰からの愛情も受けなかった男が、希う。懇願する。

『俺を愛して』

「そんなの、今更だ」
 自分の気持ちは決まっている。だけど。
「それは、オレと同じ意味なの…?」
 愛の形は様々で、友情でさえ、そのひとつに数えられるだろう。
 愛してほしいと願うそれは、どんな形なのか。ヒューイットが望むものと同じなのか。
 息切れの苦しさに足を止める。荒れた大地に吹く風は、酷く乾いている。
 掌を握り締める。
 あの時、触れた熱は今も冷めずに在る。

『俺を、愛して』

 言葉にならなかった彼の懇願を、拳で胸に抱え込む。
 心臓が痛い。

「…聞かなきゃ、よかった」
 意味なんて知らなければよかった。
 けれど、好奇心は秘密を暴き、託された気持ちを無視はできない。
「オレは――」
 小さな呟きは、強い風に浚われた。
 言葉にならない気持ちを、いつか伝えられるだろうか。

(オレがキスをするなら)

 多分、それは唇の上。




 花の乙女が出来るまで、まとめその7。
 使用したお題は、「幸せになってね」「爪先に口づけ」のふたつ。
 イェンファ以外の、他者視点での番外編的なエピソード。かなりホモホモしいですが、書いてる人が腐れてるのでゴメンナサイ。 まだまだ続きますので、よろしくお願い致します。

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