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zoom RSS 花の乙女が出来るまで 6

<<   作成日時 : 2016/12/31 14:56   >>

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 すっかり見慣れたオルフェア住宅街の道を歩きながら、唐突に不安になった。
 俺は当たり前のように帰り道を急いでいるけれど、ヒューイットはどうなのだろう、と。
 待っていてくれる、と思っているのは、俺だけなのではないのか。厄介な元殺し屋が居なくなって、せいせいしているのではないか。
 両足が鉛のように重くなる。
 敢えてメモは残さなかった。もしかしたら、帰ってこられなくなるかもしれないと思っていたから。約束は残したくなかった。ただ、帰って来る、戻りたい、とその意志表示代わりに短剣を残した。
 一緒に生きていきたいと思っているのは、俺だけだ。ヒューイットがどう考えているかは、知らない。聞いたことはない。助けられた時から、なし崩しに一緒に居るだけ。黙って出て行ったことを、裏切りのように思われていたら。

(俺は一体どうしたら)

 不安で、とうとう足が止まる。
 もう家は見えているのに。帰りたいけれど、怖い。
(この世の中に、ナイフで刺されるより恐ろしいことがあるなんて)
 初めて知った。
 ヒューイットに拒絶されたら、俺はどうなってしまうんだろう。
(嫌だ、怖い。考えたくない)
 立ち竦んでいると、御近所の住人が家から出て来た。
「あっ」
 俺の顔を見て、ピンク色のプクリポが声を上げる。
「帰ってきた! ヒューイさーん、プラコンさんが帰ってきたよー!」
「え、うわ!?」
 嬉しそうに跳ねた彼女は、俺の手にぶら下がるようにして駆け出す。身長差お構いなしの勢いに、俺は中腰で家の前まで引っ張られて行った。
「れおさん?」
 丁度、庭先で畑に水をやっていたらしいヒューイットが出てくる。
 俺の顔を見て、当たり前のように笑った。
「おかえりー」
「…た、ただいま」
 ぎこちなく返す。
「れおさん、お知らせしてくれて、ありがとう」
「どういたしまして!」
「また今度、一緒に写真撮りに行こうね」
「はい!」
 ぶんぶんと両手を振って、彼女は素早くルーラで飛び去った。出掛ける予定があったらしい。
「帰って来たばっかりで、こき使って悪いけど、お茶淹れてくれる?」
 ヒューイットが玄関を開けながら言う。
「自分じゃ、あんまり美味しくないんだよね」
 貰いものだけどクッキーあるんだよ、と開いた扉は閉ざされることなく、俺を招いた。
「ただいま」
 もう一度、そう口にしてみる。ここはヒューイットの家。そして。
「うん、おかえり」
 俺の家でもある。
(俺の帰る場所)
 不安は、杞憂で終わってくれた。その事に感謝して、俺はキッチンに向かう。
「人使いが荒いな」
 叩いた軽口が震えそうだった。
 何故、こんなにもやさしいのか。どうして、俺を受け入れてくれるのか。いつか、聞けるだろうか。
「勝手に外出した罰だよ」
 心配するから、メモぐらい置いていってよ、とヒューイットが言う。
「…次からはそうする」
「うん」
 ヒューイットは手を洗って、当たり前のように自分の椅子に座る。俺は湯を沸かし、当たり前のようにカップをふたつ用意して、紅茶を淹れる。
「ありがと」
 猫舌の彼は、ふうふうとカップの紅茶に息を吹きかける。
「…美味しい」
「そうか」
(よかった)
「これからもさ」
 カップを傾けながら、何でもないことのように、ヒューイットは言った。
「オレの為に、紅茶を淹れてよ」
「…紅茶だけでいいのか」
「御飯も作って!」
「洗濯と掃除は」
「それもお願いします!」
「まるでプロポーズだな」
「あはは、花束用意しなきゃ」
 そう笑ったところで、何かを思い出したらしいヒューイットが立ち上がる。
「そうだ」
「ヒューイ?」
 ガタゴトと少し重そうな音をさせて、奥から2本の短剣を持ってくる。まっさらの美しい短剣は、三つ星の最高品質とノーミスの練金が施されていた。
「これでも、武器鍛冶の端くれだからね、いい出来でしょ」
「これは…」
「花束みたいにロマンチックじゃないけど使って。置いてった短剣は、もう無いから」
「え」
「溶かして、素材にしちゃった」
「は!?」
 暗殺用の短剣に未練はないが、柔和なイメージなのに、随分大胆なこともするんだな、と思った。
「重さや長さは、ほとんど同じにしたから使いやすいと思うよ」
 言葉通り、短剣は両掌によく馴染んだ。
「元々、二刀流でしょ? 置いていったナイフは片方しかなかったけど」
 掌見たら判るよ、と彼は言う。
「…どうして」
「え、マーキング」
「…は?」
「オレのだよ、って目印付けておかないとね」
(今、プロポーズより凄い事言われたなかったか?)
「別に何処に行ったって構わないし、オレに止める権利も何もないけど」
 ぎゅ、と手を握られる。
「黙って居なくなるのは、無しね?」
 そういうの、もう沢山だからさ、と軽口めかして告げられたけれど、言葉は酷く重かった。
「ヒューイ」
 多分、彼にも。
 何かしらの『理由』はあるだろう。
(俺を助けたのも、ただの行きがかりだけではないんだな)
 だから。
 ヒューイの手を握り返す。
「俺は、ここに居たい。何処かへ出掛けても、ここに帰ってきたい」
「うん」
「…居なくなったりしない」
「うん」
「短剣、ありがとう。使わせてもう」
 殺す為ではなく守る為に、この刃を振るおう。
 握り締められた指を解いて、ヒューイットの掌にキスを落とす。
「…騎士の忠誠?」
 眼の縁を赤くして、引っ込めようとする掌にもうひとつ。
「それは、手の甲だ」
「……掌は?」
「さてね」
 その意味を告げることはしない。
「何それ、もったいぶるなあ」
 抗議はさらりと流して、俺は短剣を装備する。まっさらな短剣の上に、魔法で記される俺の所有の証。
 それは、絶対に消えない印だ。
(なるほど、だからマーキングか)
 馴染んだ、2本の短剣の重み。でも、これは新たな誓い。
(俺は、二度と間違わない)
「ヒューイ」
「ん?」
「力を貸してほしい。俺がここに居られるように」
「いいよ」
「ありがとう」
 俺はヒューイットの前に、コンシェルジュ試験の受験書類を出した。
 試験合格後、ランダムに割り振られる派遣先を望まない場合、現在の雇い主のサインが必要なのだ。
「ここにサイン?」
「ああ」
「判った」
 サラサラと書かれたサインは、俺の未来への約束だった。
「…ということは、またしばらく留守なんだね…」
 彼が涙目なのは、先程までとは全く違う理由だ。
「……食事は作り置きしておくから」
「ひとりで御飯食べても、美味しくなーいー!」
「研修込みで、1ヶ月ぐらいだ」
 我慢してくれ。
「早く帰って来てね…!」
「ああ」
 切実な顔でお願いされては、頷く以外に無い。
(なるべく早く帰ろう)
 ここへ。この場所へ。
(俺達の家へ)
「今日は、何が食べたい?」
 好きなもの作ってやると言えば、ぱっと顔を輝かせる。
「やったー!」
 戻ってきたばかりだが、買い出しに行かねばなるまい。だが、それすらも。
(楽しくて、くすぐったい)
 あたたかな家。ヒューイットの隣。
(ただいま)
 俺の帰る場所。



 持ち歩きと保存に特化した魔法でコーティングした料理を、みっちりと棚に詰める。
 一ヶ月分より多いのは、おやつも含んでいるからだ。紅茶は不味かろうが何だろうが、自分で淹れてもらうしかないが、これで誰か遊びに来ても不自由は無いはずだ。
 整然と並んだ料理を眺め、ちょっとした達成感に浸っていると、ヒューイットが帰って来た。
「ただいまー」
「おかえり」
 ジュレットに行くと言って出掛けていた彼は、大きな荷物をテーブルの上に広げる。
「何だ、その大荷物」
「トート君に急ぎで仕上げてもらったんだー」
「旅人のカバン?」
「うん。研修用の荷物、これに詰めて行くといいよ」
「え」
「今使ってるの、中途半端なサイズだったから」
 いろいろ入るよー、とニコニコするヒューイの顔には、小さな擦り傷がある。素材を得る為に、魔物とやり合ってきたんだろう。
「……莫迦だな」
 こんな俺の為に、怪我までするなんて。
「オレがしてあげられることなんて、これぐらいしかないからね」
「恩返しが追いつかないだろ」
「返してもらわなきゃいけない恩なんて無いよ」
 ヒューイは笑って、俺の頭を撫でる。
「気にしないで。自由でいいんだよ」
 恩義だとかそんなもので縛りつけたい訳ではない、自分の意志でここに居ることを選んでほしいのだと言外に告げられる。
「カバン、使わせてもらう」
「うん」
「ありがとう」
「どういたしまして」
 にへら、と嬉しそうに笑ったヒューイットは、まだあるよーと大荷物を更に解く。
「既製品だけど、サイズは合ってると思う」
 シンプルなデザインの白いシャツが数枚と、不自然にならない程度のゆとりがある黒いスラックス。
「小さなナイフの一本ぐらい仕込むだろうと思って」
「…オ気遣イ傷ミ入リマス」
 丸腰でいられない性分は、おそらく一生抜けないだろう。
 それを見抜かれていることが、少し落ち着かない。嫌われるんじゃないかとか、失望されるんじゃないかとか、胸の奥がざわざわする。
「隠し武器とかカッコイイよねー」
 のほほんと返されて、不安は一瞬で霧散したが。
「数が半端なかったから、最初は驚いたけど」
 あの時、身に付けていた武器は大小問わず、いつの間にか、すべてヒューイットが作ったものになっていた。
「お給金の前払いみたいなものだから、気にしないでね」
 帰ってきたら、身の回りのこと全部やってもらうんだしね、と笑う。
「ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう」
 待ってるから早く帰って来てね、と手を振られ、俺は真新しいカバンに荷物を詰め込んで、ヒューイットの家を出た。

 プライベート・コンシェルジュになる為に。



 花の乙女が出来るまで、まとめその6。
 使用したお題は、「裏切り」「私があなたにしてあげられる事」のふたつ。
 一応、ここで一区切りとして、Twitter上では番外編的な、別キャラ視点の話を進めています。ここまでの細かい伏線なども回収中。番外編が終わったら、プラコン研修のお話を書きたいと思っています。まだまだ懲りずに続きます。少しでも楽しんでもらえますように。

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