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zoom RSS 花の乙女が出来るまで 4

<<   作成日時 : 2016/11/27 14:09   >>

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 ヒューイットの家を抜け出して、オルフェア駅まで来たのはいいが。
(もしかしなくても、一文無しだった)
 生活費はもらっていたが、当然あれはヒューイットの金なので、財布ごと置いてきた。死んだことになっている俺の預り所は凍結されているし、そうでなければ監視されているだろう。
(俺が死んだと、あのマダムがすんなり信じる訳がないしな)
 そもそも裏稼業で得た金など今更使えない。
(そうなると、電車賃すら無いんだよな…情けねえ)
 とりあえず小ビンでも売るかと、旅人のカバンを探っていると、ぽろりと小さなピアスが転がり落ちた。
「あっ、お兄さん落ちたよ!」
 すぐ近くに居たプクリポがそれを拾ってくれる。
「ああ、ありがとう」
「綺麗な石だね!」
「片方しかないけどな」
「そうなんだ? じゃあ、いつかもう片方と出会えるといいね」
 良い旅を! と、陽気に笑って、そのプクリポは列車に乗り込んでいった。
 俺は手のひらの中で、ピアスを転がす。ぼんやりと虹色に光る鉱石が何かは知らないが、これは子供の俺が身に着けていたものだ。最初から、片方しかなかった。当然といおうか、俺のピアス穴も片方にしかない。
(これなら、いいか)
 裏稼業で稼いだものではないし、少しは金になるだろう。
 素材屋に持ち込むと、店主はそこそこの値段を提示してくれた。これだけあれば、しばらくは宿にも泊まれる。俺は了承して、金を受け取った。
「さて、風の噂じゃグレンに居るらしいが」
 組織のバックアップもなくなり、電車賃すら事欠く俺に上手く見つけられるかどうか。
(不安ではあるが、やるしかねえな)
 俺の料理を美味しいと笑ってくれる人の為にも。

 あの優しい場所に帰る為にも。


 グレンは、オルフェアとはまた違う賑やかさがある。
 昼の街を素顔で歩く気にはなれなかったので、伊達眼鏡で申し訳程度に顔を隠す。
「さてと」
 とりあえず、聞き込みなら酒場だろう。街の西側にある酒場のドアをくぐると、中は人の声と熱気で溢れていた。
「すまない、人を探してるんだが」
 マスターに声を掛ける。
「ニコルという男を知らないか、探偵らしいんだが」
「…ああ、ニコルなら」

「呼んだかい?」

 カウンターに座っていた男が振り返る。
 縁なし眼鏡越しの瞳は愛想よく笑っているが、あからさまに警戒されていた。
(当たり前だな)
「俺の名はアンバー、人を探してる」
「探しているのは、私ではなくて別の人間か。依頼かな?」
「依頼が必要ならするが、アンタのところにニールという男が居るはずだ」
 その名を出すと、ニコルの警戒の色が更に強まる。
「言っておくが、俺は追手じゃない」
 両手を上げて、敵意が無いことを示すが、ニコルの態度は硬い。
「俺を信じるのは無理だろうが、こっちも訳有りでね。取次だけは頼みたい」
「…いいだろう」
 少し考え込みながらも、ニコルは頷いた。
「ここで待てるか?」
「尾行はしないよ」
 ニコルはマスターと視線を交わすと、そのまま酒場を出て行った。
「マスター、びっくりトマトジュース置いてる?」
「ああ」
「じゃあ、それを」
 紅い液体で満たされたグラスが、カウンターに置かれる。ニコルは、このマスターとは随分な懇意のようだ。監視していると言わんばかりの無遠慮な視線が、少々居心地悪い。
(さて、飲み終わる前に戻って来てくれるといいが)
 俺は、ジュースのグラスを殊更ゆっくりと傾けた。


 ニコルは背後を気にしながら、自宅まで戻ってきた。
「おかえり、ニコル」
「ああ」
「どうした、難しい顔をしているな?」
「おまえ、アンバーって奴を知っているか?」
 ニコルが口にした名前に、ニールは眉を顰める。
「おまえに会いたいと言っているんだが」
「そいつは、ウェディか?」
「そうだ」
「アンバーと自分から名乗ったのか」
「ああ」
 考え込むように黙り込んだニールに、ニコルは尋ねる。
「誰なんだ、知り合いなのか?」
「『アンバー』は『マダム』のところで飼われていた殺し屋の名前だ」
「『マダム』の!?」
 探偵ともなれば、少なからず闇組織との接触はある。
「…そういえば、少し前に一番の腕利きが死んだとか噂になっていなかったか?」
「それが、アンバーだ。マダムはまだ疑ってるだろうがな」
「偽物か?」
「いや、逆にアンバーを名乗るメリットがない」
 ウェディで殺し屋の名を騙れば、間違いなく組織に狙われる。
 敢えて、その危険を冒す理由は。
「本人だろうな。俺に何の用かは判らないが」
「…会うか?」
「ああ、顔は知っている。連れてきてくれるか」
「ここの方が都合がいいか」
「万が一の時にもな」
「判った」
 ニコルは自宅から出ると、再び酒場へと戻った。


 二杯目を頼む前に、探偵は戻ってきた。
「ニールが会うと言っている」
「…ありがとう」
 感謝の言葉は自然に出た。元々の関係性を考えれば、断られてもおかしくはなかったから。
 ニコルはそんな俺をまじまじと見つめてから、店を出るよう促してきた。
「私のルーラを使え。ニールは自宅に居る」
「借りるよ」
 移動の魔法がかかった蒼い石に意識を手中する。ふわりとした、特有の浮遊感。
 オーグリードのざらついた地面に降り立つと、きちんと手入れされた大きな家が目に飛び込んでくる。
(ああ、ここも)
 あたたかい、家だ。

 真後ろに、探偵が降りた気配。
 正面の玄関から、ニールが姿を現す。俺がおかしな真似をしたら、挟み撃ちという訳だ。
(さすがに、手抜かりないな)
 俺は動かず、こちらにやって来るニールを待った。
 上から下まで確認されている視線を感じる。俺の前で立ち止まった彼は、無遠慮な動きで伊達眼鏡をもぎ取った。
「三か月前に死んだ男が、何をしている?」
(もう三ヶ月か)
「御節介な奴に助けられて、冥府の川を渡り損ねたのさ」
「俺に何の用だ」
「あんたが、プライベート・コンシェルジュになった方法を聞きたい」
 直球の質問に、直球で返す。
「何だと?」
「偽造ではなく、正式な手続きを踏みたいんだ。あんたもそうしたんだろう?」
(この探偵の為に)
 料理が苦手で、ハウジングが大好きで、床水槽にゆらめくリュウグウノツカイをいつまでも眺めている、ヒューイットの隣に居る為に。
 居候でも、きっと何も言わないだろう。俺の料理を喜んで食べて、あの家に帰って来るだろう。
(だけど)
 体裁だけでもいい、公式な立場が欲しい。嘘を吐かせたりしないで、胸を張って、うちのプラコンだよと言ってもらえるように。

『生きてていいよ』

 何もかもを知りながら、それでも笑ってくれたヒューイットに、相応しい存在である為に。
(あいつとなら、生き直せる気がするから)
 この罪から赦されようとは思わない。ただ、生きたい。もう一度。
「……意外と表情豊かだったんだな」
 マダムの所に居る時は死んだようなポーカーフェイスで、眉ひとつ動かさず武器を振るっていたのに、とニールが言う。
(そんなに顔に出てるのか)
 思わず、自分の顔に手をやる。
「いいだろう、俺に判ることならおしえてやる」
「本当か!?」
「ああ」
「ありがとう!」
 礼を述べる俺を、ニールは何故か面白そうに見ている。
「続きは中に入ってからでもいいだろう」
 やりとりを見ていたニコルが、ぽん、と俺の背中を叩く。
「ニール、お茶の準備を」
「ああ」
 二人に促されて、俺はニコル邸に足を踏み入れる。それは、かつて感じたこともない、ワクワクとした踊るような気持ちがする一歩だった。



 花の乙女が出来るまで、まとめその4。
 前作に続き、フレンドさんにキャラをお借りしました。ニコルさん、御快諾ありがとうございました!
 ニコルさんが撮られる写真と文章で綴られる創作が、とても好きです。その中の、探偵ニコルさんとその助手のニールさんの設定が特に好きで、今回自分なりの解釈を交えて書きました。
 使用したお題は以下の通り。
「落ちたピアス」
「キミとなら(あいつとなら、に変換)」
 花の乙女の出来上がりは、名前をもらった瞬間にしようかなーと思っていたのですが、名前をもらった後も書きたい話があるので、自分が満足できるところまでは書く予定。自己満足は甚だしいですが、最後まで読んで頂けたら嬉しいです。楽しく読んでくれてる人は何人いるんだろう、と震えながら。

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